
「家族が突然、脳梗塞で入院した」



「これからどんな治療をするの?」



「リハビリ病院へ転院するの?」



「退院後は家に帰れる?」
突然の入院で、この先の生活が見えず、不安になっている方も多いのではないでしょうか。
脳梗塞は、治療だけでなく、リハビリ、転院、介護、仕事、お金など、短期間に考えなければならないことが多い病気です。
しかし、入院した直後から、家族だけですべてを決める必要はありません。
医療ソーシャルワーカー(MSW)として長年、患者さんとご家族の退院支援に携わってきた経験をもとに、脳梗塞で入院してから退院後の生活までの流れを分かりやすく解説します。
※この記事は一般的な情報を紹介するものです。治療方針や転院時期、利用できる制度は、患者さんの状態や加入している保険、自治体などによって異なります。詳しくは主治医、病院の医療ソーシャルワーカー、各制度の窓口へご確認ください。
脳梗塞とは?突然の症状があったら迷わず119番
脳梗塞とは、脳の血管が詰まり、脳の一部へ血液が届かなくなる病気です。
血流が途絶えると脳の細胞が障害され、次のような症状が突然現れることがあります。
- 顔の片側がゆがむ
- 片方の腕や足に力が入らない
- 片側の手足がしびれる
- ろれつが回らない
- 言葉が出てこない
- 相手の話を理解できない
- 物が二重に見える
- 見える範囲が急に狭くなる
- 急にふらつき、立てなくなる
- 意識がもうろうとする
症状が一度治まったように見えても、自己判断で様子を見てはいけません。
脳卒中が疑われる症状は、治療開始までの時間が非常に重要です。厚生労働省も、顔のゆがみ、ろれつの回りにくさ、突然の片側の手足の脱力などがある場合は、迷わず119番通報するよう案内しています。
「少し休めば治るかも」と待たず、すぐに救急車を呼びましょう。


脳梗塞で入院したあとの大まかな流れ
脳梗塞で入院したあとは、おおむね次のような流れで治療と退院支援が進みます。
- 救急搬送・検査
- 急性期病院での治療
- 早期リハビリの開始
- 後遺症や生活状況の確認
- 退院先や転院先の検討
- 回復期リハビリ病院への転院、または自宅退院
- 退院後の通院・介護・リハビリ・再発予防
ただし、全員が同じ経過をたどるわけではありません。
症状が軽ければ、急性期病院から直接自宅へ退院することがあります。一方、麻痺、失語、飲み込みにくさなどが残り、集中的なリハビリが必要な場合は、回復期リハビリテーション病棟への転院が検討されます。
医療処置を継続する必要がある場合や、自宅生活が難しい場合には、療養病院や介護施設などが選択肢になることもあります。
急性期病院では何をする?
急性期病院では、まずCTやMRI、血液検査、心電図などを行い、脳のどの部分に異常があるのか、血管がどのように詰まっているのか、発症からどのくらい時間が経過しているのかを調べます。
患者さんの状態や発症からの時間などによっては、血栓を溶かす治療や、カテーテルを使って血栓を取り除く治療が検討されます。
その後は、薬による治療、全身状態の管理、再発予防と並行して、可能な範囲からリハビリが始まります。
リハビリには、主に次の専門職が関わります。
- 理学療法士:起きる、立つ、歩くなどの練習
- 作業療法士:食事、更衣、トイレ、家事などの練習
- 言語聴覚士:会話、理解、発音、飲み込みなどの練習
寝たきりによる筋力低下を防ぎ、残っている機能を生かすためにも、状態が許せば早い段階からリハビリを始めます。
家族は入院直後に何を確認すればいい?
入院直後は、不安と緊張で説明が頭に入らないこともあります。
すべてを一度に理解しようとせず、まずは次の項目を確認しましょう。
主治医に確認すること
- 脳梗塞が起きた場所と範囲
- 現在行っている治療
- 今後予想される症状や後遺症
- 食事や飲み込みの状態
- リハビリの進み具合
- 今後の治療予定
- 回復期リハビリ病院への転院が必要か
家族の中で説明を聞く人を決め、メモを取ると情報を整理しやすくなります。
聞きたいことを事前にスマートフォンへ入力しておくのもおすすめです。
病院へ伝えておきたいこと
医療者は、病気の状態だけでなく、退院後の生活環境も確認します。
次の内容を分かる範囲で伝えましょう。
- 入院前は一人で生活できていたか
- 同居家族の有無
- 自宅の階段や段差
- トイレや浴室の場所
- 家族が介護できる時間
- 本人と家族が希望する退院先
- 仕事をしているか
- 経済的な不安があるか
- すでに介護保険を利用しているか
- 遠方の家族の近くへ転院したいか
希望がまだ決まっていなくても大丈夫です。
「何を決めたらよいか分からない」と、そのまま伝えてください。


回復期リハビリテーション病棟へ転院する場合
回復期リハビリテーション病棟は、急性期の治療を終えたあと、日常生活動作の改善と自宅や社会への復帰を目指して、集中的にリハビリを行う病棟です。
脳梗塞で次のような症状が残っている場合、転院が検討されます。
- 手足の麻痺
- 歩行困難
- 食事や着替え、トイレに介助が必要
- 言葉が出にくい、会話を理解しにくい
- 飲み込みにくい
- 注意力や記憶力などの高次脳機能に問題がある
- 自宅へ戻るために住宅環境や介護体制の調整が必要
ただし、希望すれば必ず入院できるわけではありません。
病状が安定しているか、リハビリによる改善が見込めるか、医療処置へ対応できるかなどを、転院候補の病院が確認して受入れを判断します。
脳血管疾患の回復期リハビリテーション病棟では、一般的に入院期間の上限が設定されています。状態や病名により異なりますが、150日または180日が一つの目安です。
これは「必ず上限まで入院できる」という意味ではありません。リハビリの進み具合や退院後の環境を確認しながら、必要な入院期間が検討されます。
転院先はどうやって決める?
転院先は、現在入院している病院の医療ソーシャルワーカーや退院支援担当者と相談しながら探すのが一般的です。
病院を選ぶときは、次の項目を確認しましょう。
- 自宅からの距離
- 家族が面会しやすいか
- リハビリの内容と実施体制
- 失語症や高次脳機能障害への対応
- 飲み込みの訓練への対応
- 個室代や日用品などを含めた費用
- 退院支援の体制
- 自宅復帰後の外来・訪問リハビリとの連携
- 医療処置が必要な場合の対応可否
有名な病院だから自分に最適とは限りません。
本人の状態、家族の通いやすさ、退院後に暮らす地域との連携も含めて選ぶことが大切です。
県外や遠方への転院も相談できる
「退院後は、離れて暮らす子どもの近くで生活したい」
「実家のある地域へ戻ってリハビリを受けたい」
このように、県をまたぐ転院を希望するケースもあります。
遠方への転院を希望する場合は、できるだけ早めに医療ソーシャルワーカーへ相談しましょう。
一般的には、次のような流れで調整します。
- 本人と家族で希望地域を確認する
- 現在の病院から候補となる病院へ相談する
- 診療情報提供書や画像データなどを送付する
- 転院先の病院が受入れを判断する
- 移動方法と付き添いを決める
- 転院日を調整する
移動方法には、自家用車、介護タクシー、民間救急、新幹線、飛行機、医療者が同行する搬送サービスなどがあります。
どの方法が安全かは、患者さんの状態や必要な医療処置によって異なります。主治医や看護師へ確認し、無理のない方法を選びましょう。
遠方への移動費や付き添い費用は、原則として自己負担になることが多いため、事前の見積もりも大切です。


自宅退院が難しい場合の選択肢
回復期リハビリを行っても介助量が多い場合や、家族だけで介護することが難しい場合は、自宅以外の退院先も検討します。
主な選択肢には、次のようなものがあります。
- 療養病院
- 介護老人保健施設
- 特別養護老人ホーム
- 介護医療院
- 有料老人ホーム
- サービス付き高齢者向け住宅
- 障害福祉サービスを利用した生活の場
どこが適しているかは、医療処置の内容、リハビリの必要性、介護量、本人の希望、家族の支援状況、費用などによって変わります。
「自宅に連れて帰らなければならない」と家族だけで抱え込まず、病院の医療ソーシャルワーカーへ相談してください。
脳梗塞で利用を検討したい制度
高額療養費制度
1か月の医療費の自己負担額が、年齢や所得に応じた上限を超えた場合、超えた金額が支給される制度です。
マイナ保険証を利用できる医療機関では、原則として限度額を超える分を窓口で支払わずに済みます。マイナ保険証を利用しない場合などは、加入している健康保険へ限度額適用認定証について確認しましょう。
ただし、差額ベッド代、入院中の食事代、日用品代、保険外診療などは、高額療養費の対象にならないことがあります。
また、高額療養費制度は2026年8月から年間上限の導入などの変更が行われています。実際の上限額は年齢、所得、受診時期などで異なるため、加入している健康保険へ最新情報をご確認ください。
傷病手当金
会社員など健康保険の被保険者が、業務外の病気やけがで働けず、給与を受けられない場合に利用できる可能性があります。
原則として、連続する3日間の待期を経たあと、4日目以降の休業日が対象です。支給期間は、支給開始日から通算して1年6か月です。
勤務先の担当部署や加入している健康保険へ相談しましょう。
介護保険
65歳以上の方は、介護が必要になった原因を問わず、要介護・要支援認定を受ければ介護保険サービスを利用できます。
40歳から64歳の方も、脳血管疾患などの特定疾病が原因で介護が必要になった場合は、認定を受けることで介護保険サービスを利用できる可能性があります。
申請は、市区町村の介護保険窓口や地域包括支援センターなどへ行います。入院中であれば、申請時期について病院の医療ソーシャルワーカーへ相談しましょう。
障害者手帳
麻痺、言語障害など一定の障害が残った場合は、身体障害者手帳の対象になる可能性があります。
ただし、発症直後にすぐ申請できるとは限りません。障害の状態がある程度固定した時期に、指定医師の診断書などをそろえて申請します。
対象となるか、いつ申請するかは、主治医、医療ソーシャルワーカー、市区町村の障害福祉窓口へ確認してください。
障害年金
脳梗塞による障害で日常生活や仕事に大きな支障が残った場合は、障害年金の対象になる可能性があります。
原則として、初診日から1年6か月を経過した日が障害認定日となります。ただし、症状が固定した時期などによって取り扱いが異なる場合があります。
初診日、年金の加入状況、保険料の納付要件、障害の程度などの条件があるため、年金事務所や社会保険労務士などへ確認しましょう。
医療費控除
1年間に支払った医療費が一定額を超えた場合は、確定申告により医療費控除を受けられる可能性があります。
病院や薬局の領収書、通院に利用した公共交通機関の記録などは保管しておきましょう。
退院後の生活に向けて家族が準備すること
退院日が近づいてから急いで準備すると、本人も家族も負担が大きくなります。
入院中から次の項目を確認しておきましょう。
自宅環境
- 玄関や室内に段差があるか
- 寝室からトイレまで安全に移動できるか
- 階段を使う必要があるか
- 浴室に手すりが必要か
- 車いすや歩行器を使用できる広さがあるか
- ベッドを置く場所があるか
必要に応じて、リハビリスタッフやケアマネジャーが自宅環境を確認することもあります。
介護する家族の状況
- 誰が主に支援するのか
- 日中に本人が一人になる時間はあるか
- 排泄や入浴の介助ができるか
- 通院へ付き添えるか
- 家族も仕事を続けられるか
- 介護者自身の健康に問題はないか
家族が無理をし続ける前提で退院計画を立てると、退院後に生活が行き詰まることがあります。
できないことや不安なことも、遠慮せず医療者へ伝えましょう。
退院後の支援
退院後は、状況に応じて次のようなサービスを組み合わせます。
- 訪問看護
- 訪問リハビリ
- 通所リハビリ
- デイサービス
- 訪問介護
- 福祉用具のレンタル
- 住宅改修
- ショートステイ
- 配食サービス
- 外来リハビリ
本人と家族だけで生活を支えようとせず、利用できる支援を早めに相談することが大切です。
仕事へ戻れるか不安なとき
脳梗塞のあとは、身体の麻痺が軽くても、疲れやすさ、注意力の低下、記憶の問題、言葉の出にくさなどが残ることがあります。
見た目では分かりにくい高次脳機能障害によって、以前と同じ仕事内容を続けることが難しくなる場合もあります。
退院したらすぐに復職すると決めず、次の点を整理しましょう。
- 通勤できる体力があるか
- 長時間集中できるか
- パソコンや電話に対応できるか
- 危険を伴う作業がないか
- 短時間勤務から始められるか
- 配置転換や業務調整が可能か
- 産業医へ相談できるか
主治医、リハビリスタッフ、医療ソーシャルワーカー、勤務先の担当者などと相談しながら、無理のない復職方法を検討してください。
医療ソーシャルワーカーに相談できること
医療ソーシャルワーカーは、患者さんと家族が抱える生活上の問題を一緒に整理する相談員です。
次のような内容を相談できます。
- 回復期リハビリ病院や療養病院への転院
- 県外・遠方への転院
- 退院後の生活場所
- 介護保険の申請
- 医療費や生活費の不安
- 傷病手当金や障害年金などの制度
- 仕事や復職の相談
- 家族の介護負担
- 地域の相談窓口との連携
- 本人と家族の希望が異なる場合の調整
相談内容がうまくまとまっていなくても大丈夫です。
「何を相談したらよいか分からない」
「家族だけでは決められない」
「お金のことが心配」
その言葉から、必要な情報を一緒に整理していきます。
病院によって名称は異なりますが、地域医療連携室、患者サポートセンター、医療福祉相談室などに配置されていることが多いです。
看護師や受付へ「医療ソーシャルワーカーに相談したい」と伝えてみてください。
まとめ|脳梗塞の退院支援は早めの相談が大切
脳梗塞で入院したあとは、治療と並行して、リハビリ、転院、退院後の生活、介護、仕事、費用について考える必要があります。
しかし、入院直後から家族だけで答えを出す必要はありません。
まずは、次の3つから始めてみてください。
- 主治医から現在の状態と今後の見通しを聞く
- 本人と家族の希望や生活状況を整理する
- 早めに医療ソーシャルワーカーへ相談する
病状や回復のペースは、一人ひとり異なります。
焦って将来を決めつけず、その時点の状態に合わせて、一つずつ選択肢を確認していきましょう。
分からないことが多いときこそ、病院や地域の専門職を頼ってください。
この記事が、突然の入院で不安を抱えている患者さんとご家族にとって、次の一歩を考えるきっかけになれば幸いです。













