
「脳梗塞で入院した家族に介護が必要になりそう」



「介護保険は、まだ入院中でも申請できるの?」



「退院までに認定が間に合わなかったらどうしよう」
脳梗塞で突然入院すると、治療やリハビリだけでなく、退院後の介護についても短期間で考える必要があります。
しかし、介護保険は入院したら自動的に利用できる制度ではありません。本人や家族などが市区町村へ申請し、要介護・要支援認定を受ける必要があります。
医療ソーシャルワーカー(MSW)として長年、退院支援に携わってきた経験をもとに、脳梗塞後の介護保険を申請するタイミング、手続きの流れ、認定調査で伝えたいこと、退院後に利用できるサービスを分かりやすく解説します。
※この記事は2026年9月時点の一般的な制度をもとにしています。手続きや必要書類、利用できるサービスは、本人の状態や年齢、加入している医療保険、自治体によって異なります。詳しくは、お住まいの市区町村、地域包括支援センター、入院先の医療ソーシャルワーカーへご確認ください。
結論|介護保険は「退院後に介護が必要になりそう」と分かった段階で相談する
脳梗塞で入院したからといって、入院直後に必ず介護保険を申請しなければならないわけではありません。
治療やリハビリによって大きく回復し、介護サービスを使わず自宅へ戻れる方もいます。一方で、麻痺や高次脳機能障害、失語症、飲み込みにくさなどが残り、退院後に介護が必要になる方もいます。
申請を検討する目安は、次のような状態が見えてきたときです。
- 歩行や立ち上がりに介助が必要
- トイレ、入浴、着替えを一人で行うことが難しい
- 食事や服薬の管理に見守りが必要
- 認知機能や注意力が低下し、一人で過ごすことが心配
- 退院後に福祉用具や訪問介護を利用したい
- 自宅の手すり設置や段差解消を検討している
- 家族だけで介護を続けることが難しい
このような状況が予想されたら、まず病棟の看護師や医療ソーシャルワーカーへ相談しましょう。
申請時期は早ければよいとは限りません。急性期は病状や介助量が変化しやすいため、今後の見通しを医師やリハビリスタッフに確認し、退院時に必要となる支援を予測してから進めることが大切です。


脳梗塞後は介護保険を利用できる?
介護保険を利用できる条件は、年齢によって異なります。
65歳以上の場合
65歳以上の方は、介護が必要になった原因を問わず、要介護または要支援と認定されれば介護保険サービスを利用できます。
脳梗塞による麻痺や失語症などがある場合はもちろん、筋力低下や認知症などによって日常生活に支援が必要な場合も申請できます。
40歳から64歳の場合
40歳から64歳までの医療保険加入者は、国が定める特定疾病が原因で介護が必要になった場合に限り、介護保険の対象になります。
脳梗塞や脳出血などの「脳血管疾患」は特定疾病に含まれるため、脳梗塞が原因で要介護・要支援状態となった方は、40歳から64歳でも申請できる可能性があります。
ただし、脳梗塞とは関係のない事故やけがなどが主な原因の場合は、介護保険の対象にならないことがあります。市区町村の介護保険窓口へ確認してください。
40歳未満の場合
40歳未満の方は、原則として介護保険の対象になりません。
身体障害者手帳や障害福祉サービス、自立支援医療、傷病手当金、障害年金など、別の制度を利用できる可能性があります。病院の医療ソーシャルワーカーや市区町村の障害福祉窓口へ相談しましょう。
入院中でも介護保険を申請できる
介護保険は、入院中でも申請できます。
「自宅に帰ってからでないと申請できない」と思われることがありますが、退院後に介護サービスが必要になる見込みがあれば、入院中から手続きを始めることができます。
ただし、急性期病院から回復期リハビリテーション病棟へ転院する予定で、今後大きな回復が見込まれる場合は、申請時期を少し待つこともあります。
申請が早すぎると、病状が不安定な時期や介助量が多い時期の状態で調査が行われ、退院時の状態と認定内容が合わなくなる可能性もあります。
反対に、申請が遅すぎると、退院までに認定やサービス調整が間に合わないことがあります。
本人の病状、リハビリの進み具合、退院予定日を確認しながら、医療ソーシャルワーカーと相談して申請時期を決めましょう。
介護保険の申請は誰ができる?
原則として本人または家族が、本人の住民票がある市区町村へ申請します。
本人や家族が手続きを行うことが難しい場合は、地域包括支援センター、居宅介護支援事業所、介護保険施設などへ申請を代行してもらえる場合があります。
入院中は、医療ソーシャルワーカーが申請方法や窓口を案内し、必要に応じて地域の関係機関と連携します。
ただし、病院がすべての自治体への申請を直接代行するとは限りません。
家族が遠方に住んでいる場合や、本人が一人暮らしの場合も、まず病院へ相談してください。


介護保険申請に必要なもの
一般的には、次のものを準備します。
- 要介護・要支援認定申請書
- 介護保険被保険者証(65歳以上の場合)
- 医療保険の資格情報を確認できるもの(40歳から64歳の場合)
- 本人確認書類
- マイナンバーを確認できる書類
- 主治医の氏名、医療機関名、診療科が分かるもの
代理人が申請する場合は、代理人の本人確認書類や委任状などを求められることがあります。
必要書類は自治体によって異なるため、申請前に市区町村の介護保険窓口へ確認しましょう。
申請から要介護認定までの流れ
1.市区町村へ申請する
本人の住民票がある市区町村の介護保険担当窓口へ申請します。
窓口へ行くことが難しい場合は、郵送申請や電子申請ができる自治体もあります。
2.認定調査を受ける
市区町村の認定調査員などが本人と面談し、心身の状態や生活の様子を確認します。
入院中の場合は、調査員が病院を訪問して調査を行うことがあります。本人だけでは入院前の生活や現在の困りごとを十分に説明できない場合は、家族が同席するとよいでしょう。
3.主治医意見書が作成される
市区町村が主治医へ意見書の作成を依頼します。
本人や家族が意見書を書いてもらい、市区町村へ提出するのが基本ではありません。ただし、申請書には主治医の氏名や医療機関名などを記載するため、事前に確認しておきましょう。
入院中に主治医が変わった場合や、転院予定がある場合は、どの医師へ依頼するのかを病院や市区町村へ確認してください。
4.一次判定と介護認定審査会
認定調査の結果をもとにコンピューターによる一次判定が行われます。
その後、保健・医療・福祉の専門家で構成される介護認定審査会が、認定調査の特記事項や主治医意見書などをもとに二次判定を行います。
5.認定結果が届く
結果は、次のいずれかで通知されます。
- 非該当
- 要支援1・2
- 要介護1~5
介護保険法では、原則として申請から30日以内に認定することとされています。しかし、主治医意見書の作成や認定調査、審査会の日程などにより、30日を超えることもあります。
退院予定が迫っている場合は、市区町村、医療ソーシャルワーカー、ケアマネジャーへ早めに伝えておきましょう。
入院中の認定調査で家族が伝えたいこと
認定調査の日だけ、本人がいつも以上に頑張ってしまうことがあります。
「今日は歩けたから大丈夫」「質問に答えられたから問題ない」と判断されないよう、日頃どのような介助や見守りが必要なのかを具体的に伝えることが大切です。
例えば、次のような内容です。
- ベッドから起き上がるときに支えが必要
- 歩けるが、ふらつきや転倒の危険がある
- トイレまで間に合わないことがある
- 着替えの順番が分からなくなる
- 食事中にむせることがある
- 薬の飲み忘れや重複が心配
- 会話はできるが、複雑な説明を理解しにくい
- 一人で外出すると道に迷う可能性がある
- 感情のコントロールが難しくなった
- 本人は「できる」と話すが、実際には見守りが必要
脳梗塞後の高次脳機能障害や失語症は、短時間の面談だけでは分かりにくい場合があります。
家族が困っている場面をメモし、認定調査員へ見せる方法もおすすめです。病棟看護師やリハビリスタッフからも、普段の様子を伝えてもらえるよう事前に相談しておきましょう。


認定結果が退院までに間に合わない場合
要介護認定の結果が出る前でも、必要と認められる場合は、暫定ケアプランを作成して介護サービスを利用できることがあります。
ただし、予想した要介護度と実際の認定結果が異なった場合、支給限度額を超えた部分や対象外となったサービスが自己負担になる可能性があります。
暫定利用を希望する場合は、自己判断でサービスを契約せず、市区町村、地域包括支援センター、ケアマネジャーへ相談してください。
認定後はケアプランを作成する
認定を受けただけでは、介護サービスは始まりません。
要介護1~5と認定された方は、居宅介護支援事業所のケアマネジャーへ依頼し、ケアプランを作成します。
要支援1・2と認定された方は、地域包括支援センターなどが介護予防ケアプランを作成します。
ケアマネジャーは、本人と家族の希望、生活環境、介護力などを確認し、必要なサービス事業所との調整を行います。
退院日までにサービスを整えるためには、入院中からケアマネジャーと病院の医療者が情報共有することが大切です。
脳梗塞後に利用できる主な介護保険サービス
訪問介護
ホームヘルパーが自宅を訪問し、入浴、排泄、食事などの身体介護や、必要な生活援助を行います。
家族と同居している場合の生活援助には一定の条件があるため、ケアマネジャーへ確認しましょう。
訪問看護
看護師などが自宅を訪問し、健康状態の確認、服薬管理、医療処置、療養相談などを行います。
訪問看護は、本人の状態や病気によって介護保険または医療保険が適用されます。
訪問リハビリテーション
理学療法士、作業療法士、言語聴覚士などが自宅を訪問し、実際の生活環境に合わせたリハビリを行います。
玄関の出入り、トイレ動作、入浴動作、家事、外出など、自宅で必要となる動作を練習できます。
通所リハビリテーション(デイケア)
施設へ通い、リハビリ、食事、入浴などの支援を受けます。
外出の機会を確保しながら、心身機能の維持・改善を目指します。
通所介護(デイサービス)
日帰りで食事、入浴、機能訓練、レクリエーションなどを利用します。
本人の活動の場になるだけでなく、家族が休息や仕事の時間を確保することにもつながります。
福祉用具貸与・購入
状態に応じて、介護用ベッド、車いす、歩行器、手すりなどを利用できます。
要介護度によって給付対象となる用具が異なるため、退院前にケアマネジャーや福祉用具専門相談員へ確認しましょう。
住宅改修
手すりの設置、段差の解消、滑りにくい床材への変更、扉の交換などが対象になる場合があります。
原則として、工事を始める前に市区町村への事前申請が必要です。先に工事をすると給付対象にならないことがあるため、必ずケアマネジャーなどへ相談しましょう。
短期入所(ショートステイ)
短期間施設に宿泊し、食事、入浴、介護などを受けます。
家族の休養、仕事、冠婚葬祭、体調不良などの際にも利用できます。
退院までに家族が確認しておきたいこと
介護保険を申請しただけで、退院後の生活がすべて整うわけではありません。
次の内容も確認しましょう。
- 退院予定日はいつか
- 本人が一人でできること、介助が必要なこと
- 自宅内の段差や階段
- トイレや浴室までの移動方法
- 家族が介護できる時間と難しいこと
- 必要な福祉用具
- 通院方法と付き添い
- 服薬管理の方法
- 緊急時の連絡先
- 訪問看護やリハビリの必要性
- 家族が休息できるサービス
「家族だから介護できるはず」と無理をする必要はありません。
仕事、育児、持病、遠距離など、家族の事情も退院支援では重要な情報です。できることだけでなく、できないことも正直に伝えましょう。
医療ソーシャルワーカーに相談できること
脳梗塞後の介護保険について、医療ソーシャルワーカーには次のような相談ができます。
- 介護保険を申請するタイミング
- 申請窓口や必要書類
- 入院中の認定調査の調整
- 退院後に利用するサービスの整理
- 地域包括支援センターやケアマネジャーとの連携
- 自宅退院と施設入所の比較
- 医療費や生活費に関する制度
- 遠方に住む家族との調整
- 本人と家族の希望が異なる場合の話し合い
病院によって「医療福祉相談室」「患者サポートセンター」「地域医療連携室」など名称が異なります。
どこへ相談すればよいか分からない場合は、病棟看護師へ「退院後の介護保険について、医療ソーシャルワーカーに相談したい」と伝えてください。
よくある質問
- 介護保険は申請した日から使えますか?
-
申請しただけで自由にサービスを利用できるわけではありません。認定結果が出る前にサービスが必要な場合は、暫定ケアプランによる利用を相談できることがあります。認定結果によって自己負担が生じる可能性もあるため、必ず市区町村やケアマネジャーへ確認してください。
- 入院中の介護にも介護保険を使えますか?
-
医療機関へ入院している間の治療や病棟内の介護は、基本的に医療保険や入院医療の仕組みで提供されます。
介護保険サービスは主に退院後の生活に向けて利用します。ただし、退院前の福祉用具や住宅改修などの準備は、病院とケアマネジャーが連携して進めることがあります。
- すでに介護保険を利用していた場合は?
-
担当ケアマネジャーへ入院したことを伝えてください。
脳梗塞によって以前より介護量が増えた場合は、要介護度の区分変更申請を検討することがあります。申請時期は、病状や退院の見通しを確認しながら相談しましょう。
- 一人暮らしでも自宅退院できますか?
-
一人暮らしという理由だけで、自宅退院ができないと決まるわけではありません。
本人の身体機能や認知機能、住環境、緊急時の連絡体制、利用できるサービスなどを確認して判断します。訪問介護、訪問看護、配食、福祉用具、見守りサービスなどを組み合わせて生活できる場合もあります。
まとめ|脳梗塞後の介護保険は退院の見通しが立ったら早めに相談しよう
脳梗塞後の介護保険は、入院中でも申請できます。
ただし、申請に適した時期は、病状、リハビリの進み具合、退院予定日、家族の介護力によって異なります。
大切なのは、次の3点です。
- 退院後に必要となる介助や見守りを確認する
- 申請時期を医療ソーシャルワーカーへ相談する
- 認定調査では普段の困りごとを具体的に伝える
介護保険の申請や退院後の生活を、家族だけで抱え込む必要はありません。
「何を準備すればよいか分からない」という段階から、病院の医療ソーシャルワーカー、地域包括支援センター、市区町村の介護保険窓口へ相談してみてください。
一つずつ準備を進めることで、本人と家族に合った退院後の生活が見えてきます。










