はじめに|大腿骨骨折後、元の生活に戻れる?
家族「母が転んで大腿骨を骨折しました。手術後はまた歩けるようになりますか?」



「父が大腿骨骨折で入院しました。リハビリ病院に転院すると言われたけれど、どのくらい入院するのでしょうか?」



「一人暮らしなので、退院後の生活が心配です」
高齢者の大腿骨骨折は、本人だけでなく家族にとっても大きな出来事です。
骨折前は一人で歩いていた方が、手術後には歩行器や車椅子を必要とすることもあります。
また、骨折の治療が終わっても、すぐに自宅へ戻れるとは限りません。
私は医療ソーシャルワーカー(MSW)として、長年、患者さんやご家族の退院支援に携わってきました。
この記事では、医療現場での経験を踏まえながら、大腿骨骨折の治療、リハビリ、転院先、入院費用、退院後の生活についてわかりやすく解説します。
1.高齢者に多い大腿骨骨折とは?
大腿骨は、太ももにある人体で最も長い骨です。
高齢者では骨粗しょう症などによって骨が弱くなり、自宅で転倒しただけでも骨折することがあります。
特に多いのが、股関節に近い「大腿骨近位部」の骨折です。
代表的なものには、次の2種類があります。
① 大腿骨頸部骨折
股関節のすぐ近く、大腿骨の細くなった部分の骨折です。骨折の状態によっては骨がつきにくく、人工骨頭置換術などの手術が行われます。
② 大腿骨転子部骨折
大腿骨の付け根にある転子部の骨折です。一般的には金属製の器具を使用して骨を固定する手術が行われます。
どちらも歩行能力や日常生活に大きく影響する可能性があります。
2.大腿骨骨折の手術後、どのくらい入院する?
大腿骨近位部骨折では、骨折の状態や全身状態に応じて手術が検討されます。
手術後は、医師の指示に従って、できるだけ早い段階からリハビリを始めることが一般的です。
ただし、手術が終わったからといって、すぐに元のように歩けるわけではありません。


入院から退院までの一般的な流れ
- 急性期病院へ入院骨折の診断、手術、全身状態の管理を行います。
- 手術後のリハビリ起き上がり、立位、歩行器での歩行などを段階的に練習します。
- 退院先の検討自宅退院が可能か、回復期リハビリ病棟への転院が必要かを検討します。
- 自宅・施設などで生活再開必要に応じて介護保険サービスや福祉用具を利用します。
急性期病院の入院期間は、1〜3週間程度で退院や転院を検討するケースもあります。
ただし、骨折の状態、合併症、本人の身体機能によって入院期間は異なります。
3.回復期リハビリテーション病棟には転院できる?
大腿骨近位部骨折は、一定の条件を満たせば回復期リハビリテーション病棟の対象になります。
回復期リハビリテーション病棟は、急性期の治療を終えた患者さんが、自宅や地域での生活に戻ることを目指して集中的なリハビリを行う病棟です。
主に以下のような訓練を行います。
- 歩行器や杖を使用した歩行訓練
- トイレや着替えなどの日常生活動作の練習
- 階段昇降や屋外歩行
- 自宅での生活を想定した動作訓練
大腿骨近位部骨折では、回復期リハビリテーション病棟の算定上限日数は原則90日です。
ただし、90日間必ず入院できるという意味ではありません。
本人の回復状況や退院準備の進み具合によって、実際の入院期間は異なります。
MSWからのアドバイス
回復期リハビリテーション病棟は、希望すれば必ず入院できるわけではありません。
本人の全身状態、リハビリへの参加が可能か、医療処置の必要性、転院先の受け入れ体制などを総合的に判断します。
特に、透析や継続的な医療処置が必要な場合は、受け入れ可能な病院が限られることもあります。
4.リハビリしても歩けない場合はどうする?
高齢者の大腿骨骨折では、リハビリを続けても骨折前と同じ歩行能力まで回復しない場合があります。
特に、骨折前から歩行能力が低下していた方や、認知症、心疾患などの持病がある方では、退院後の生活を慎重に考える必要があります。
しかし、歩けなくなったからといって、必ず施設へ入所しなければならないわけではありません。
例えば、歩行器で短距離の移動ができる場合には、手すりの設置や訪問介護などを組み合わせることで自宅生活が可能になることがあります。
また、車椅子を利用する場合でも、住宅環境や介護サービスを調整することで在宅生活を続けられるケースがあります。
大切なのは、「歩けるかどうか」だけでなく、「どのような支援があれば生活できるか」を考えることです。


5.退院先はどう選ぶ? 自宅・回復期・老健・施設の違い
骨折後の退院先は、本人の身体機能、医療的な管理の必要性、家族の介護力などによって変わります。
| 退院先 | 主な特徴 |
|---|---|
| 自宅 | 介護サービスや福祉用具を利用して生活 |
| 回復期リハビリ病棟 | 医療保険で集中的なリハビリを実施 |
| 老健 | 介護保険でリハビリや生活支援を実施 |
| 特養 | 継続的な介護が必要な方が生活する施設 |
| 介護付き有料老人ホーム | 介護を受けながら生活する施設 |
回復期リハビリ病棟と老健の違い
回復期リハビリ病棟は、医療保険を利用して集中的なリハビリを行う場所です。
一方、老健(介護老人保健施設)は、介護保険を利用してリハビリや生活支援を受けながら、在宅復帰や生活機能の維持・改善を目指す施設です。
両者はリハビリの提供体制や時間数が異なります。
回復期は2〜3時間(1日)行いますが、老健は20分程度の個別リハビリが週に何回かある感じで、日常生活がリハビリですよ、とう感じになります。
ただし、リハビリの時間数だけでなく、本人がどの程度の訓練に参加できるか、医療処置が必要かといった点も重要です。
6.大腿骨骨折の入院費用はいくら?【1割負担の場合】
家族が特に気になるのが、入院費用ではないでしょうか。
ここでは、75歳以上で医療費が1割負担、住民税課税世帯の一般所得区分に該当する方を想定して説明します。
1割負担の場合の入院費用の目安
2026年10月時点では、一般所得区分の入院を含む高額療養費の月額自己負担限度額は61,500円です。
入院中の食事代は、一般的な所得区分では1食550円、1日3食で1,650円です。
仮に30日間入院し、医療費が月額上限に達した場合の費用を計算すると、以下のようになります。
| 費用項目 | 30日間の概算 |
|---|---|
| 医療費(自己負担上限) | 61,500円 |
| 食事代(550円×90食) | 49,500円 |
| 病衣・日用品など(仮定) | 10,000円 |
| 合計 | 121,000円 |
つまり、1か月の入院で約12万円が一つの試算例となります。
ただし、医療費が上限に達しない場合はこれより安くなります。また、差額ベッド代などが発生すると高くなります。
急性期病院から回復期リハビリ病院まで入院した場合
入院費用の概算例
1割負担・一般所得区分・各月の医療費が上限に達する想定
| 急性期病院14日間 | 約9万円 |
| 回復期病院30日間 | 約12万円 |
| 合計44日間 | 約21万円 |
別々の月に入院し、それぞれの月で医療費が上限に達した場合の試算です。転院日や入院月、所得区分、医療費の合算・払い戻しの有無によって変わります。
回復期リハビリ病棟での入院が長くなる場合には、さらに費用がかかります。
例えば、急性期病院と回復期病院を合わせて約3か月間入院し、各月の医療費が上限に達する場合、食費や日用品代を含めて35万〜40万円程度になる試算もできます。
ただし、入院期間が月をまたぐと、費用が大きく変わることがあります。
注意! 高額療養費は月ごとに計算される
高額療養費制度は、毎月1日から末日までの医療費を基準に計算します。
例えば10月25日に入院して11月15日に退院した場合、10月分と11月分は別々に計算されます。
また、急性期病院から回復期リハビリ病院へ転院した場合は、病院ごとに請求されますが、条件を満たせば後から医療費を合算して払い戻しを受けられる場合があります。
なお、住民税非課税世帯では、医療費や食事代の負担が軽減されることがあります。
MSWからのアドバイス
入院費が心配な場合は、医事課やMSWに「食事代や病衣代も含めて、退院までにどのくらい費用が必要ですか?」と確認してみましょう。
また、限度額の適用状況や所得区分についても、入院中に役所や病院に確認しておくと安心です。
7.退院までに家族が準備しておきたいこと
大腿骨骨折では、退院が決まってから準備を始めると、時間が足りなくなることがあります。
特に一人暮らしの高齢者や、家族が遠方に住んでいる場合は、早めの相談が大切です。
退院準備チェックリスト
確認できた項目
0 / 6骨折前の歩行能力や生活状況を病院に伝える主治医に治療・リハビリ方針を確認する介護保険の申請・区分変更を相談する自宅の段差・トイレ・浴室を確認する回復期リハビリ病棟への転院を相談する退院後の介護サービス・費用を確認する
- 骨折前の歩行能力や生活状況を病院に伝える
- 主治医に治療・リハビリ方針を確認する
- 介護保険の申請・区分変更を相談する
- 自宅の段差・トイレ・浴室を確認する
- 回復期リハビリ病棟への転院を相談する
- 退院後の介護サービス・費用を確認する
65歳以上で介護が必要な状態であれば、介護保険の要介護認定を申請できます。
すでに介護保険を利用している方でも、骨折によって介護の必要度が変わった場合は、区分変更申請を検討することがあります。
病院のMSWや退院支援看護師に相談すると、必要な制度や地域の相談窓口を案内してもらえます。
8.よくある質問(FAQ)
- 大腿骨骨折をしたら、もう歩けなくなりますか?
-
必ずしもそうではありません。骨折前の身体機能、骨折の状態、手術後の経過、リハビリなどによって回復状況は異なります。
- 回復期リハビリ病棟には90日間入院できますか?
-
大腿骨近位部骨折の場合、制度上の算定上限は原則90日ですが、全員が90日間入院できるわけではありません。本人の回復状況や退院準備によって期間が変わります。
- 認知症があってもリハビリ病院に転院できますか?
-
認知症があるという理由だけで一律に転院できないわけではありません。リハビリへの参加状況、医療・介護上の対応の必要性などから個別に判断されます。
- 家族が介護できない場合はどうすればいいですか?
-
在宅サービスの調整や施設入所など、本人と家族の状況に合った方法を検討できます。入院中からMSWに相談することをおすすめします。
- 大腿骨骨折の入院費用は1割負担なら安くなりますか?
-
医療費は1割負担ですが、食費や日用品代などが別途必要です。高額療養費制度を利用しても、一般所得区分で1か月約12万円になる試算例があります。所得区分や入院日数によって実際の負担は変わります。
9.まとめ|骨折の治療と退院後の生活はセットで考えよう
高齢者の大腿骨骨折では、手術やリハビリだけでなく、その後の暮らしを考えることが大切です。
骨折前のように歩けることだけを目標にするのではなく、本人がどのような生活を望んでいるか、どのような支援があれば安全に暮らせるかを考えていきましょう。
また、入院が長引く場合には費用の負担も大きくなります。
早い段階から医療スタッフと相談し、退院先や介護サービス、費用について準備を進めることをおすすめします。
困ったときは、一人で抱え込まず、病院の医療ソーシャルワーカーに相談してみてください。











