「親が倒れたけど、仕事を休めるの?」「介護休業って給付金が出るって聞いたけど、どれくらいもらえるの?」——介護が突然始まった時、多くの方が仕事との両立に悩みます。
日本には「介護休業」「介護休暇」という、働く人が仕事と介護を両立できるよう設計された制度があります。しかし、実際にはこの制度を知らない、または使い方がわからないまま介護離職してしまう方が後を絶ちません。
元医療ソーシャルワーカーとして、仕事と介護の板挟みになった方を何百人も支援してきました。この記事では、介護休業・介護休暇の仕組みから取り方・給付金の計算方法まで、知らないと損する制度を徹底解説します。
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介護休業と介護休暇の違い:まず基本を整理しよう
「介護休業」と「介護休暇」は名前が似ていますが、内容は大きく異なります。まず両者の違いを整理しましょう。
| 項目 | 介護休業 | 介護休暇 |
|---|---|---|
| 目的 | 介護の体制を整えるための長期休暇 | 急な介護対応のための短期休暇 |
| 日数 | 対象家族1人につき通算93日 | 対象家族1人で年5日、2人以上で年10日 |
| 取得単位 | まとめて・分割して(最大3回) | 1日または半日単位 |
| 給付金 | あり(雇用保険から) | なし(無給が多い) |
| 申請先 | 職場・ハローワーク | 職場 |
| 対象者 | 雇用保険加入の労働者 | 日雇いを除く労働者 |
簡単に言うと、介護休業は「長期でしっかり休める制度」、介護休暇は「急な介護対応に使える短期の休み」です。
介護休業とは:93日の使い方と申請方法
介護休業の対象者
介護休業を取得できるのは、以下の条件を満たす労働者です:
- 雇用保険に加入している(パート・派遣も対象)
- 同じ会社に継続して1年以上勤務している
- 介護終了後も引き続き働く意思がある
ただし、以下の場合は対象外になることがあります:
- 日雇い労働者
- 期間雇用者で介護休業終了後に契約期間が終了することが明らかな場合
- 労使協定で週3日以下の勤務者を対象外とすることができる
介護休業の対象家族
介護休業の対象となる「要介護状態の家族」の範囲は広く設定されています:
| 対象となる家族 | 条件 |
|---|---|
| 配偶者(事実婚含む) | 要介護状態にある |
| 父母(義父母含む) | 要介護状態にある |
| 子ども | 要介護状態にある |
| 祖父母・兄弟姉妹・孫 | 要介護状態にある+同居・扶養の条件(廃止された場合もあり) |
「要介護状態」とは、介護保険の要介護認定を受けていることが前提ではありません。2週間以上にわたり常時介護を必要とする状態であれば対象となります。
93日の賢い使い方
介護休業は対象家族1人につき通算93日まで取得でき、最大3回まで分割して取得できます。
重要なのは、93日を「介護を続けるための期間」として使うのではなく、「介護の体制を整えるための期間」として活用することです。
| 使い方の例 | 期間 | 目的 |
|---|---|---|
| 入院直後に集中して使う | 1回目:30日 | 病院への付き添い・退院後の体制整備 |
| 施設探し・ケアマネジャー探し | 2回目:30日 | サービス利用申請・施設見学など |
| 在宅介護サービスが安定するまで | 3回目:33日 | ヘルパー・デイサービスに慣れるまで |
「介護するために休む」ではなく「介護の仕組みをつくるために休む」という使い方が、長期的な仕事との両立に繋がります。
介護休業の申請方法
介護休業を取得するには、以下の手順で会社に申請します:
- 会社の人事・総務部門に相談(まず口頭で相談、制度の確認)
- 所定の申請書に記載(休業開始予定日・終了予定日・対象家族の情報)
- 書類を提出(開始予定日の2週間前までが原則)
- 会社がハローワークに届出(介護休業給付金の手続き)
会社が申請を拒否することは原則として違法です。もし会社に制度の利用を断られた場合は、都道府県労働局の「総合労働相談コーナー」に相談しましょう。
介護休業給付金:いくらもらえるか計算してみよう
介護休業中は、雇用保険から「介護休業給付金」が支給されます。これは育児休業給付金と同じ仕組みです。
給付金の金額
介護休業給付金の金額は、休業開始前の賃金日額 × 67%が支給されます。
| 休業前の月収(目安) | 支給額(月額目安) | 手取りイメージ |
|---|---|---|
| 月収20万円 | 約13.4万円 | 社会保険なし+非課税で実質的に手取りとほぼ同等 |
| 月収25万円 | 約16.75万円 | 生活できるレベル |
| 月収30万円 | 約20.1万円 | 住居費・生活費はカバーできる |
| 月収40万円 | 約26.8万円 | ある程度の生活水準が維持できる |
給付金は非課税で、休業中は社会保険料の支払いも一部免除される場合があります(会社の制度による)。そのため、手取りで見ると休業前の賃金の8割程度を受け取れることも多いです。
給付金を受け取るための条件
- 雇用保険の被保険者であること
- 介護休業を取得していること
- 介護休業開始前の2年間に12ヶ月以上雇用保険に加入していること
- 休業中の就業日が10日以下(または80時間以下)であること
申請はハローワークに対して会社が行います。給付金は後払いで、休業終了後に一括で振り込まれることが多いです。
介護休暇とは:年5〜10日の使い方
介護休暇は、要介護状態の家族がいる労働者が、介護や付き添いなどのために1日または半日単位で取得できる休暇です。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 日数 | 対象家族が1人:年5日、2人以上:年10日 |
| 取得単位 | 1日または半日(時間単位で取得できる会社も) |
| 給与 | 無給(会社によっては有給) |
| 申請方法 | 口頭でも可(書面が望ましい) |
| 証明書類 | 不要(会社によっては求められることも) |
介護休暇が使えるシーン:
- 親の急な体調不良への対応
- 病院の付き添い・診察の同席
- 介護サービス事業所との打ち合わせ
- 施設の見学・入所手続き
- ケアマネジャーとの相談
介護休業・介護休暇以外の両立支援制度
介護休業・休暇以外にも、仕事と介護を両立するための制度があります。
| 制度名 | 内容 | 期間 |
|---|---|---|
| 所定労働時間の短縮措置 | 1日6時間勤務等に変更可 | 要介護状態が続く間 |
| 時差出勤・フレックスタイム | 出退勤時間の調整 | 3年間以上(会社による) |
| 深夜業の制限 | 午後10時〜午前5時の就業免除 | 要介護状態が続く間 |
| 所定外労働の制限(残業免除) | 残業を断ることができる | 要介護状態が続く間 |
| テレワーク・在宅勤務 | 自宅で仕事できる(会社による) | 会社の制度による |
これらの制度は、会社に申請することで利用できます。育児・介護休業法で権利として保障されているものも多く、会社が拒否することは原則として認められていません。
介護と仕事を両立するための5つのポイント
ポイント①:早めに会社・上司に相談する
介護が始まりそうな段階で、早めに上司や人事部門に相談することが重要です。「まだそこまで大変じゃないから」と抱え込んでいると、急に休まざるを得ない状況になり、職場に迷惑をかけることになります。
相談することで、業務の引き継ぎ計画を立てる時間を確保でき、理解ある職場環境をつくることができます。
ポイント②:介護保険サービスをフル活用する
「仕事と介護の両立」は、家族だけで介護を抱え込まず、介護保険サービスをフル活用することで初めて可能になります。ヘルパー、デイサービス、ショートステイなどを組み合わせ、家族が仕事に集中できる時間を確保することが重要です。
ポイント③:介護休業はあくまで「体制整備」に使う
93日の介護休業を「自分が介護するための期間」として使ってしまうと、介護サービスの導入が遅れ、結果的に仕事復帰が難しくなります。休業中に「自分がいなくても回る介護の仕組み」をつくることを最優先にしましょう。
ポイント④:社内の両立支援制度を確認する
法律で定められた制度以外に、会社独自の両立支援制度がある場合があります。就業規則や人事規程を確認し、フレックスタイム、テレワーク、介護休暇の有給化などを積極的に活用しましょう。
ポイント⑤:「介護離職」は最後の手段と考える
介護が大変になると「仕事を辞めて介護に専念しよう」と思いがちですが、介護離職は経済的に大きなリスクを伴います。仕事を辞めると収入が途絶え、自分の老後資金も貯められなくなります。
| 介護離職した場合のリスク | 具体的な影響 |
|---|---|
| 収入ゼロになる | 生活費・介護費が賄えなくなる可能性 |
| 雇用保険が切れる | 介護休業給付金が受け取れない |
| 社会的なつながりが失われる | 孤立・うつのリスクが高まる |
| 再就職が困難になる | 介護の空白期間が不利になることも |
| 介護が終わっても職場復帰できない | 年齢・スキルのブランクが壁になる |
離職を考える前に、必ず介護休業・休暇制度の利用、介護保険サービスの活用、職場との調整を試みてください。
制度を使うときの注意点・よくある落とし穴
注意点①:93日は「思ったより短い」
介護休業の通算93日は、最大3回まで分割できますが、対象家族1人につきの上限です。複数の家族の介護が重なる場合は、別々にカウントされます。ただし、93日を超えて使うことはできないため、計画的に使う必要があります。
注意点②:給付金は後払い
介護休業給付金は、休業が終わった後にまとめて支給されます。休業中は収入がゼロになりますので、生活費の備えが必要です。貯蓄がない場合は、短期の借り入れ(カードローン等)を検討することも一つの手段です。
注意点③:会社に「使いにくい空気」がある場合
制度は法律で保障されていても、職場の雰囲気で使いにくいことがあります。そのような場合は、都道府県労働局・労働基準監督署・総合労働相談コーナーに相談できます。制度を利用したことを理由とした不利益な扱いは違法です。
よくある質問
Q. パートタイマーでも介護休業は取れますか?
A. 雇用保険に加入していて、同じ会社に1年以上勤務し、介護休業終了後も引き続き勤務する意思がある場合は取得できます。週20時間以上働いていれば雇用保険に加入しているはずなので、まず会社または雇用保険の加入状況を確認してみましょう。
Q. 介護休業の申請を会社に断られました。どうすればよいですか?
A. 法律の要件を満たしていれば、会社は原則として断ることができません。会社に再度確認した上で、それでも対応されない場合は都道府県労働局・総合労働相談コーナーに相談してください。費用はかかりません。
Q. 介護休業を取った後、給付金はいつ振り込まれますか?
A. 介護休業終了後に会社がハローワークに申請し、審査の後に振り込まれます。目安として、休業終了から1〜2ヶ月程度かかることが多いです。会社の担当者に確認しておくと安心です。
Q. 介護休業中にアルバイトはできますか?
A. 休業中の就業が10日以下(または80時間以下)であれば給付金を受け取れます。この範囲を超えると給付金が減額・不支給になる場合があるので注意が必要です。副業・アルバイトを考える場合は事前に確認しましょう。
Q. 自営業・フリーランスは介護休業を使えますか?
A. 介護休業は雇用保険の制度のため、会社員や一部のパート・派遣社員が対象です。自営業・フリーランスは雇用保険に加入していないため、基本的に利用できません。ただし、自治体によっては独自の支援制度を設けている場合もあります。
相談窓口まとめ
| 相談先 | 相談内容 | 連絡方法 |
|---|---|---|
| ハローワーク | 介護休業給付金の手続き・相談 | 最寄りのハローワークへ |
| 総合労働相談コーナー(都道府県労働局) | 会社が制度を拒否した場合 | 電話・窓口(無料) |
| 地域包括支援センター | 介護保険サービスの相談 | 市区町村の窓口 |
| ケアマネジャー | 介護サービスの調整・相談 | 居宅介護支援事業所 |
| 企業内の人事・総務部門 | 社内制度の確認・申請手続き | 社内窓口 |
まとめ:介護休業・介護休暇を正しく使って仕事を守ろう
介護休業・介護休暇は、働く人が介護を理由に仕事を辞めなくて済むように設計された大切な制度です。しかし、知らなければ使えません。
| 制度 | 最大日数 | 給付金 | 主な使い方 |
|---|---|---|---|
| 介護休業 | 通算93日(最大3回分割) | あり(賃金の67%) | 介護体制の整備期間 |
| 介護休暇 | 年5日(2人以上で10日) | なし(無給) | 急な付き添いや手続き |
| 所定労働時間短縮 | 3年間以上 | なし | 日常的な介護との両立 |
大切なのは、介護が始まる前・始まった早期に制度を確認し、職場に相談することです。「迷惑をかけたくない」という気持ちはわかりますが、無理をして体や仕事を壊してしまっては元も子もありません。
制度を使うことは権利です。堂々と活用して、介護と仕事を両立してください。何か迷ったときは、地域包括支援センターやケアマネジャーにも気軽に相談してみましょう。
元MSWとして、あなたの仕事と介護の両立を心から応援しています。