「入院が必要な治療は落ち着いたので、退院を考えましょう」
そう説明されても、本人や家族には不安が残ることがあります。

「入院前より歩けなくなっているのに、自宅へ帰れる?」



「抗がん剤治療を続けながら、リハビリを受けられる?」



「一人暮らしだから、食事や薬の管理が心配」



「仕事や子育てをしながら、どう療養すればいい?」
がんになる年齢も、家族構成も、必要な支援も人それぞれです。
退院後の生活を考えるときは、病気の状態だけでなく、体力、生活動作、治療の予定、仕事や学校、家族の支援体制を一緒に確認します。
自宅へ戻るほかにも、リハビリ目的の転院や、医療・介護に対応した施設などを検討できる場合があります。
この記事では、医療ソーシャルワーカー(MSW)として約20年の経験をもとに、がん退院後の療養先と利用できる支援を解説します。
がんで退院できると言われても治療終了とは限らない
退院は、必ずしも「がんが治った」「医療が必要なくなった」という意味ではありません。
入院が必要な治療が一段落し、外来や地域の医療機関で治療・療養を続けられる状態になったときも、退院を検討します。
退院後の過ごし方には、次のようなものがあります。
- 外来で抗がん剤治療や放射線治療を続ける
- 手術後の回復を目指してリハビリを受ける
- 訪問診療や訪問看護を利用する
- 痛みなどの症状を和らげながら生活する
- 仕事や学校への復帰に向けて準備する
- 自宅以外の病院や施設で療養する
まずは主治医へ、退院後も必要な治療や医療について確認しましょう。
「次の治療はいつですか」
「通院はどのくらい必要ですか」
「自宅で注意する症状と、連絡先を教えてください」
このように、具体的に質問して大丈夫です。
がん治療後に体力や生活動作が低下することがある
がんの治療や入院をきっかけに、筋力や体力が落ちることがあります。
これは高齢者だけの問題ではありません。
若い人でも、手術の影響、治療の副作用、食事量の減少、活動量の低下などによって、以前のように動けなくなる場合があります。
たとえば、次のような変化です。
- 起き上がるだけで疲れる
- トイレまで歩くことが難しい
- 入浴や着替えに介助が必要
- 階段を上れない
- 食事の準備や買い物ができない
- 通勤や通学に必要な体力が戻らない
治療が落ち着いたことと、以前と同じ生活ができることは、分けて確認する必要があります。
がんのリハビリは、歩行訓練だけではありません。
食事、着替え、入浴、飲み込み、コミュニケーションなど、生活に必要な機能の維持・改善も支援します。
本人や家族からも、次のように伝えてみましょう。
「入院前より動けなくなっています。退院後の生活に向けて、リハビリを続ける方法を相談したいです」
入院でリハビリを続ける選択肢もある
すぐに自宅へ戻ることが難しい場合は、リハビリ目的の転院を検討することがあります。
候補には、回復期リハビリテーション病棟や地域包括ケア病棟などがあります。
ただし、希望すれば必ず入院できるわけではありません。
対象となる病気や状態、必要な医療、体力、回復の見通し、病院の受け入れ体制を確認して調整します。
回復期リハビリテーション病棟
回復期リハビリテーション病棟は、専門的・集中的なリハビリを行い、生活機能の改善と退院を目指す病棟です。
がんの手術などに伴う廃用症候群で対象となる場合もありますが、がん治療後に体力が落ちた人全員が対象になるわけではありません。
主治医やリハビリ担当医が、制度上の対象条件と本人の状態を確認します。
また、リハビリの時間が多ければ、その人に合っているとは限りません。
痛み、疲れやすさ、栄養状態、副作用などを踏まえ、取り組める内容と量を考えることが大切です。
地域包括ケア病棟
地域包括ケア病棟では、急性期治療後の体調管理やリハビリを行いながら、退院後の生活を整えます。
たとえば、次のような支援です。
- 自宅で必要な動作の練習
- 食事や栄養状態の確認
- 家族への介助方法の説明
- 訪問診療や訪問看護の調整
- 利用できる介護・生活支援サービスの準備
- 福祉用具や住環境の調整
回復期病棟と地域包括ケア病棟では役割が異なります。本人の状態と退院後の目標に合わせて相談しましょう。www.jarm.or.jp
抗がん剤治療中でも転院の可能性を相談できる
「抗がん剤を使っているから、リハビリの病院へは行けない」と一律に考える必要はありません。
2026年度の診療報酬改定では、回復期リハビリテーション病棟でも、抗悪性腫瘍剤と疼痛コントロールのための医療用麻薬が包括対象から除外され、薬剤料を別に算定できるようになりました。www.mhlw.go.jp
ただし、薬剤料を別に算定できることと、その病院で治療を継続できることは、分けて確認します。
転院前には、次の点を調整します。
- 使用している薬の種類
- 内服か点滴か
- 治療と検査の予定
- 副作用が出た場合の対応
- がん治療を担当する病院との連携
- 他院への通院が必要な場合の方法と費用の扱い
主治医やMSWには、次のように相談できます。
「抗がん剤治療を続けながら、リハビリができる病院への転院を相談できますか」
自宅・病院・施設は必要な支援から選ぶ
療養先は、年齢や病名だけで決めるものではありません。
本人が希望する暮らしと、必要な医療・生活支援が合っているかを確認します。
| 療養先 | 主に検討する状況 | 確認したいこと |
|---|---|---|
| 自宅 | 訪問サービスなどを組み合わせて生活できる | 医療体制、生活支援、緊急時対応 |
| 回復期リハビリテーション病棟 | 対象条件に該当し、集中的なリハビリが必要 | 全身状態、治療継続、リハビリの見通し |
| 地域包括ケア病棟 | 体調管理やリハビリ、退院準備が必要 | 必要な医療、退院後の支援 |
| 老健 | 介護保険の対象で、医学的管理・介護・リハビリが必要 | 治療・通院への対応、在宅復帰の目標 |
| 介護施設・高齢者住宅 | 自宅での生活が難しく、継続的な支援が必要 | 入居条件、医療対応、費用 |
| 医療療養の病院など | 継続的な医療管理が必要 | 入院条件、治療方針、受け入れ体制 |
| 緩和ケア病棟 | がんによるつらい症状への専門的な支援が必要 | 入院条件、相談方法、費用 |
老健や高齢者向け施設は、年齢や要介護認定などの条件があります。
若い患者さんの場合は、利用できる施設や制度が限られることもあるため、MSWへ早めに相談しましょう。
自宅療養は訪問診療・訪問看護・生活支援を組み合わせる
自宅へ戻る場合も、本人や家族だけで医療や介護を抱える必要はありません。
訪問診療
通院が難しい場合などに、医師が計画的・定期的に訪問して診察や処方、療養上の管理を行います。
がん治療を受けている病院と、訪問診療医が連携する場合もあります。
訪問看護
看護師などが訪問し、体調確認、症状の観察、服薬支援、医療処置、家族への介護指導などを行います。
抗がん剤治療中の副作用、痛み、食欲低下などについても相談できます。
訪問看護は高齢者だけのサービスではありません。医師の指示や制度上の条件を満たせば、若い人も利用できます。www.mhlw.go.jp
ただし、24時間ずっと付き添うサービスではありません。
夜間・休日の連絡方法と、緊急訪問の条件を確認しておきましょう。


リハビリと生活支援
状態や利用条件に応じて、次の支援を組み合わせます。
- 外来や訪問でのリハビリ
- 訪問介護などの日常生活の支援
- 入浴の支援
- 福祉用具
- 配食や見守り
- 家事・育児の支援
- 通院手段の確保
利用できる制度は年齢や病状、自治体によって異なります。
「介護保険が使えないから支援も受けられない」と判断せず、病院の相談窓口へ確認してください。
年齢や生活状況に合わせて使える制度を確認する
65歳以上の人
日常生活に介護や支援が必要な場合は、介護保険の要介護認定を申請します。
がんの病名だけで認定されるわけではありません。
移動、排泄、入浴、食事など、実際の生活でどの程度の支援が必要かを伝えることが大切です。
40〜64歳の人
40〜64歳の医療保険加入者は、介護保険の特定疾病が原因で要支援・要介護状態になった場合に対象となります。
がんについては、医師が医学的知見に基づき、回復の見込みがない状態に至ったと判断した場合という条件があります。
すべてのがん患者が対象になるわけではありません。主治医と市区町村へ確認してください。www.mhlw.go.jp
介護保険の対象にならない人
40歳未満の人や、介護保険の条件に該当しない人も、必要な支援を相談できます。
医療保険の訪問看護、状態や対象要件に応じた障害福祉サービス、自治体独自の支援などを確認します。
利用できる制度は一律ではありません。病名だけで判断せず、困っている生活場面を具体的に伝えましょう。
若いがん患者は仕事・学校・子育ても相談できる
がんの療養では、医療や介護に加えて、生活全体の調整が必要になることがあります。
若い世代では、次のような悩みもあります。
- 治療と仕事を両立できるか
- いつ復職できるか
- 通学や実習を続けられるか
- 子どもの送迎や家事をどうするか
- 収入が減ったら生活費をどうするか
- 一人暮らしを続けられるか
退院日が決まってからではなく、入院中から相談して構いません。
勤務先や学校へ伝える内容、必要な書類、利用できる休暇・給付・支援などを整理していきます。
がん相談支援センターでは、治療だけでなく、仕事、学校、家事、育児、医療費、福祉サービスについても相談できます。ganjoho.jp
一人暮らしへ戻る前に確認すること
一人暮らしだから、自宅退院できないとは限りません。
ただし、訪問サービスのない時間帯も含めて、安全に過ごせるかを確認します。
- 食事や水分を確保できるか
- 薬を管理できるか
- トイレへ移動できるか
- 電話や緊急通報を使えるか
- 体調の変化を周囲へ伝えられるか
- 夜間に一人で過ごせるか
- 通院できるか
- 緊急時に誰へ連絡するか
訪問診療、訪問看護、生活支援、配食、見守りなどを組み合わせます。
支援を整えても生活の継続が難しい場合は、自宅以外の療養先も一緒に考えます。


緩和ケアは治療中から相談できる
緩和ケアは、最期の時期だけに受けるものではありません。
痛み、息苦しさ、吐き気、眠れない、不安などを和らげるため、がん治療と並行して相談できます。
本人だけでなく、家族のつらさも相談の対象です。
病院の外来、自宅、入院など、状態に合う場所で支援を受ける方法があります。
専門的な症状緩和が必要な場合は、緩和ケア病棟が選択肢になることもあります。入院条件や申し込み方法は病院ごとに確認してください。ganjoho.jp
退院前に本人と家族が確認したいこと
退院前の説明では、次の項目を確認しましょう。
| 確認項目 | 聞いておきたいこと |
|---|---|
| 治療 | 今後の治療内容・通院頻度 |
| リハビリ | 必要な内容・継続する場所 |
| 生活動作 | 歩行・トイレ・着替え・入浴の介助量 |
| 食事 | 食事量・食事形態・水分・栄養の注意点 |
| 医療処置 | 退院後に必要な処置と担当者 |
| 服薬 | 本人で管理できるか・支援が必要か |
| 緊急時 | 夜間や休日の連絡先・受診の目安 |
| 仕事・学校 | 復帰に向けた配慮や書類 |
| 家事・育児 | 支援が必要な場面と担当者 |
| 費用 | 医療費・サービス費・生活費の見込み |
調整することが多い場合は、退院前カンファレンスを相談してください。
病院と転院先、訪問診療、訪問看護、ケアマネジャーなどが情報を共有し、退院後の支援を整えます。
医療費と生活費は分けて相談する
がんの療養にかかる費用は、治療費だけではありません。
通院交通費、日用品、生活支援、家賃、子育て費用なども確認します。
医療費
保険診療の自己負担が高額になる場合は、高額療養費制度を利用できることがあります。
対象や上限は年齢、所得、診療時期などで異なるため、加入している医療保険へ確認してください。
入院中の食事代、差額ベッド代、日用品などは別に確認します。
介護・生活支援の費用
介護保険、障害福祉サービス、自治体の支援、民間サービスでは、費用の仕組みが異なります。
どの制度が使えるかと、実際の自己負担を確認しましょう。
収入が減った場合
仕事を休む、勤務時間を減らす、退職を検討するといった場合は、収入面の相談も必要です。
利用できる給付や勤務先の制度は、加入保険や雇用状況などで異なります。
退職を決める前に、勤務先、加入している健康保険、MSW、がん相談支援センターなどへ相談してください。
MSWには療養先が決まる前から相談できる
MSWには、次のようなことを相談できます。
- リハビリ目的で転院できるか知りたい
- 抗がん剤治療を続けられる転院先を探したい
- 自宅で使えるサービスを知りたい
- 介護保険の対象になるか分からない
- 医療処置に対応できる施設を探したい
- 医療費や生活費が心配
- 一人暮らしを続けられるか不安
- 仕事や学校への復帰を相談したい
- 子育てや家事の支援が必要
- 家族だけでは介護を続けられない
相談内容がまとまっていなくても構いません。
「治療は落ち着いたけれど、この状態でどう生活すればよいか分かりません」
この一言から相談を始められます。


よくある質問
若くても入院でリハビリを受けられますか?
年齢だけで決まるものではありません。
病状、対象条件、生活動作、リハビリの必要性、治療内容などを確認して検討します。
抗がん剤治療中は回復期病棟へ転院できませんか?
一律に転院できないわけではありません。
回復期病棟の対象条件に加えて、薬の種類、治療方法、副作用、検査や通院の予定を確認し、治療病院と転院先で調整します。
介護保険が使えないと訪問看護も利用できませんか?
介護保険の対象でなくても、医師の指示と条件に応じて医療保険の訪問看護を利用できる場合があります。
主治医やMSWへ相談してください。
自宅療養を選んだら最後まで自宅で過ごす必要がありますか?
病状や本人の希望、家族の状況に応じて見直せます。
自宅療養を始める段階で、状態が変わった場合の受診先や入院先も相談しておきましょう。
家族が十分に支援できないと伝えてもよいですか?
伝えて大丈夫です。
家族にも仕事や子育て、健康上の事情があります。
できることと難しいことを共有することが、無理なく続けられる支援につながります。
まとめ|年齢にかかわらず退院後の暮らしを相談しよう
がん退院後の生活は、病名や年齢だけでは決まりません。
今後の治療、リハビリ、生活動作、医療処置、仕事や学校、家族の支援体制を整理します。
すぐに自宅へ戻ることが難しい場合は、回復期リハビリテーション病棟や地域包括ケア病棟などへの転院も相談できます。
抗がん剤治療を続けている場合も、治療とリハビリをどう両立できるか、個別に確認しましょう。
まずは、次の3点を病院で相談してください。
- 退院後も必要な治療と医療
- 生活に必要なリハビリと支援
- 本人と家族が無理なく過ごせる療養先
本人や家族だけで答えを出す必要はありません。
主治医、看護師、リハビリスタッフ、MSW、がん相談支援センターへ、今困っていることを伝えるところから始めてください。
参考情報
- 国立がん研究センター がん情報サービス「緩和ケア」
- 国立がん研究センター がん情報サービス「がんとリハビリテーション医療」
- 国立がん研究センター がん情報サービス「がん相談支援センターで相談できること」
- 厚生労働省「特定疾病の選定基準の考え方」
- 厚生労働省「令和8年度診療報酬改定・入院共通事項」
情報確認日:2026年10月16日。治療、リハビリ、制度の利用条件、受け入れ体制は、主治医・医療機関・自治体等へ個別に確認してください。











