高齢者の大腿骨頸部骨折|手術後の経過・入院期間・リハビリ・転院を元MSWが解説

「母が転倒して、大腿骨を骨折したと連絡がきた」

「手術が終わったばかりなのに、もう転院や退院の話をされて戸惑っている」

高齢の親が突然骨折すると、ご家族は病状だけでなく、手術後の生活や介護、転院先、費用についても短い期間で考えることになります。

特に高齢者に多いのが、股関節に近い部分を骨折する「大腿骨近位部骨折」です。治療後に歩けるようになるのか、自宅へ戻れるのか、施設を探す必要があるのか、不安になる方も多いでしょう。

この記事では

医療ソーシャルワーカー(MSW)として退院支援に携わった経験をもとに、大腿骨骨折で入院してから、手術、リハビリ、転院、退院までの一般的な流れと、家族が準備することを解説します。

※本記事は一般的な情報です。治療方法や入院期間、リハビリの進み方は、骨折の種類、全身状態、認知機能などによって異なります。個別の判断は主治医や病院の専門職へご確認ください。

目次

結論|手術後すぐに「退院後の生活」を考え始めることが大切

高齢者の大腿骨骨折では、手術が無事に終わっただけで、すぐ元の生活へ戻れるとは限りません。

手術後は、できるだけ早く身体を動かしながら、次のことを同時に考えていきます。

  • どの程度まで歩行や日常生活が回復しそうか
  • リハビリを続けるために転院が必要か
  • 自宅へ戻る場合、誰がどこまで介助できるか
  • 介護保険や福祉用具が必要か
  • 自宅が難しい場合、どのような施設が候補になるか

家族だけで結論を出す必要はありません。主治医、看護師、リハビリスタッフ、MSW、ケアマネジャーと相談しながら、本人にとって安全で続けられる生活を考えていきます。

高齢者に多い大腿骨近位部骨折とは

大腿骨近位部骨折とは、太ももの骨のうち、股関節に近い部分の骨折です。主に次のような種類があります。

  • 大腿骨頸部骨折:股関節の内側に近い部分の骨折
  • 大腿骨転子部骨折:頸部より少し下の、骨が張り出した部分の骨折

高齢者では、室内での転倒など比較的小さな衝撃でも骨折することがあります。骨粗しょう症が背景にある場合も少なくありません。

骨折によって動けない期間が続くと、筋力や体力の低下、床ずれ、肺炎、認知機能の低下などにつながることがあります。そのため、全身状態を確認したうえで手術を行い、早期にリハビリを始めるケースが多くなります。

大腿骨骨折で入院してから退院するまでの流れ

1.救急搬送・検査・入院

転倒後に股関節周辺の強い痛みがあり、立てない、歩けない場合は、救急搬送されることがあります。

病院では、診察や画像検査で骨折の場所と状態を確認します。同時に、持病、服用中の薬、心臓や呼吸機能、認知症の有無などを確認し、手術に耐えられる状態か検討します。

家族は、次の情報を病院へ伝えられるように準備しておくとスムーズです。

  • お薬手帳、服用中の薬
  • 持病と過去の手術歴
  • アレルギー
  • 受傷前の歩行状態と生活状況
  • 介護保険の有無と担当ケアマネジャー
  • 本人の認知症や物忘れの状態
  • 緊急連絡先

2.手術

手術方法は、骨折の場所やずれ方、年齢、骨の状態、受傷前の活動性などによって決まります。

骨を金属で固定する手術や、損傷した骨頭を人工物へ置き換える手術などがあります。家族は、手術名だけでなく、術後いつから足に体重をかけられるのか、生活上の注意点は何かを確認しましょう。

手術をしない「保存療法」が選ばれる場合

高齢者の大腿骨近位部骨折では、早期に身体を動かせるようにするため、手術が検討されることが多くあります。一方で、すべての方が手術を受けるわけではありません。

骨折のずれが小さい場合のほか、重い心臓病や呼吸器疾患などで手術の負担が大きい場合、全身状態、受傷前の生活状況、認知機能、今後の療養目標、本人や家族の希望などを総合して、手術を行わない保存療法が選択されることがあります。

ここで注意したいのは、認知症があることだけを理由に、手術をしないと決まるわけではないということです。認知症があっても、痛みを軽減して早期離床につなげる目的などから手術を行う場合があります。治療方針は、手術によって期待できる効果と負担、手術をしない場合の見通しを確認したうえで、医療者と話し合います。

保存療法では、痛みを和らげながら骨折部の状態を確認し、可能な範囲で関節を動かす訓練、ベッド上での体位変換、座位、車いすへの移乗などを進めます。必要以上の安静は筋力低下、床ずれ、肺炎などにつながるため、どこまで動いてよいかを医師やリハビリスタッフへ確認することが大切です。

保存療法後の生活場所をどう考える?

保存療法を選択した後の療養場所は、痛み、移動能力、医療的な管理の必要性、家族の介護力などによって異なります。

  • 自宅で生活する場合:訪問診療、訪問看護、訪問リハビリ、訪問介護、福祉用具などを組み合わせる
  • 施設で生活する場合:必要な介護量や医療対応に合う施設を検討する
  • 病院で療養を続ける場合:医療管理の必要性や今後の療養目標に合う病院を検討する

自宅を希望する場合でも、家族だけで移乗や排泄介助を抱える必要はありません。介護ベッド、車いす、移乗用具、訪問サービスを組み合わせて、安全に続けられるかを退院前に確認します。

一方、常時介助が必要、痛みが強い、床ずれの危険が高い、家族が介護を担えない場合は、施設や療養できる病院も選択肢になります。手術をしない方針が決まった段階から、MSWやケアマネジャーへ今後の生活について相談しましょう。

3.手術後のリハビリ

全身状態が安定すると、ベッド上での運動、起き上がり、立位、車いすへの移乗、歩行器や杖を使った歩行などを段階的に練習します。

高齢者の場合は、入院や手術をきっかけに、一時的に混乱したり、夜眠れず落ち着かなくなったりする「せん妄」が起こることもあります。家族から普段の様子を医療者へ伝えることが、状態の把握に役立ちます。

4.退院またはリハビリ目的の転院

手術を行った急性期病院では、状態が安定すると、次の療養場所を検討します。

  • 自宅へ退院する
  • 回復期リハビリテーション病棟などへ転院する
  • 地域包括ケア病棟などで退院準備を進める
  • 介護施設などへ移る
  • 全身状態に応じて療養を継続する

すべての方が同じ病棟や施設を利用できるわけではありません。病状、リハビリの必要性、入院期間の条件、本人の希望、受け入れ先の状況などによって決まります。

手術した病院から早く転院を勧められるのはなぜ?

「まだ歩けないのに、もう転院ですか?」と驚く家族は少なくありません。

急性期病院は、手術や全身管理など、緊急性の高い治療を担当する役割があります。手術後の状態が安定し、集中的なリハビリが中心となった場合は、リハビリを専門に行う病院などへ役割を引き継ぎます。

転院を勧められたからといって、治療を打ち切られるわけではありません。次の段階に必要な医療やリハビリを行うための移動と考えるとわかりやすいでしょう。

ただし、転院先によってリハビリ体制、面会、費用、個室料金、自宅からの距離などが異なります。候補を提示されたら、家族の希望や通いやすさもMSWへ伝えてください。

回復期リハビリテーション病棟へ転院できる?

大腿骨近位部骨折は、状態や時期などの条件を満たせば、回復期リハビリテーション病棟の対象になります。

回復期リハビリテーション病棟では、歩行だけでなく、着替え、トイレ、入浴、家事など、退院後の生活を意識した訓練を行います。

ただし、次のような点を踏まえて転院の可否が判断されます。

  • 医学的に状態が安定しているか
  • 集中的なリハビリが必要か
  • リハビリによる改善が期待できるか
  • 入院時期などの制度上の条件を満たすか
  • 転院先で必要な医療に対応できるか

希望すれば必ず入院できるとは限らないため、早めに主治医やMSWへ相談しましょう。

自宅退院できるかを判断する7つのポイント

自宅へ戻れるかは、歩けるかどうかだけでは決まりません。

1.ベッドから一人で起きられるか

起き上がりや立ち上がりに介助が必要な場合、介護者が安全に手伝えるか、介護ベッドなどで補えるかを確認します。

2.トイレへ安全に行けるか

トイレまでの移動、衣類の上げ下げ、便座への立ち座り、夜間の排泄を確認します。夜だけポータブルトイレを使う方法もあります。

3.家の中を移動できるか

杖や歩行器で移動できても、廊下の幅や段差によっては自宅で使えないことがあります。病院内での歩行と、実際の家での移動は分けて考えましょう。

4.玄関や階段を越えられるか

玄関の上がり框、エレベーターの有無、寝室やトイレの階などを確認します。生活を一階へ集約することで退院できる場合もあります。

5.認知症やせん妄の影響はないか

歩行能力が回復しても、安全確認ができない、勝手に立ち上がる、夜間に混乱する場合は転倒リスクが高くなります。

6.家族がどこまで介助できるか

家族の仕事、体力、持病、同居状況も重要です。「できること」と「できないこと」を率直に医療者へ伝えましょう。

7.サービスを使って補えるか

訪問介護、訪問看護、訪問リハビリ、通所サービス、福祉用具などを組み合わせることで、自宅生活が可能になる場合があります。

退院前に家族が確認するチェックリスト

  • 現在の歩行方法と介助量を確認した
  • ベッド・トイレ・入浴の介助方法を練習した
  • 家の段差、廊下、階段、浴室を確認した
  • 退院後に必要な杖、歩行器、車いすなどが決まった
  • 介護保険の申請状況を確認した
  • 担当ケアマネジャーへ入院を連絡した
  • 退院当日から使うサービスを決めた
  • 通院先と移動方法を確認した
  • 骨粗しょう症の検査・治療について確認した
  • 家族が休める方法も決めた

入院中に介護保険を申請したほうがよい?

65歳以上で、退院後に介助やサービスが必要になる見込みがある場合は、入院中から介護保険の申請を検討します。

すでに認定を受けている方でも、骨折前より介助量が大きく増えた場合は、区分変更申請を検討することがあります。

認定結果が出るまで時間を要する場合があるため、主治医、病院のMSW、ケアマネジャー、市区町村の介護保険窓口へ早めに相談しましょう。

40~64歳の方は、介護保険を利用できる原因疾患が法律で定められています。骨折だけで対象になるとは限らないため、個別に確認が必要です。

退院後に利用できる主なサービス

訪問リハビリテーション

理学療法士や作業療法士などが自宅を訪問し、実際の生活環境で歩行、トイレ、着替えなどの練習を行います。

通所リハビリテーション・通所介護

日帰りで施設へ通い、リハビリ、入浴、食事などを受けます。本人の活動の機会になるだけでなく、家族が休む時間にもつながります。

訪問介護

入浴、排泄、着替えなどの身体介護や、本人の状況に応じた生活援助を受けられます。

訪問看護

看護師などが体調、傷の状態、服薬状況などを確認します。持病が多い方や、退院直後の体調に不安がある場合にも相談できます。

福祉用具貸与・購入

状態や要介護度などに応じて、介護ベッド、車いす、歩行器、手すり、シャワーチェアなどを利用できる場合があります。貸与と購入の対象は異なるため、ケアマネジャーや福祉用具専門相談員へ確認してください。

住宅改修

介護保険では、手すりの取り付け、段差の解消、滑りにくい床材への変更などが給付対象になることがあります。

原則として工事前の申請が必要です。先に工事を契約・実施せず、ケアマネジャーと市区町村へ相談しましょう。

自宅退院が難しい場合の選択肢

本人が一人暮らしで常時見守りが必要、家族が介護できない、自宅の階段や構造上の問題が解消できないなどの場合は、施設を検討することがあります。

候補には、介護老人保健施設、特別養護老人ホーム、有料老人ホーム、サービス付き高齢者向け住宅などがあります。ただし、対象者、費用、提供される介護、医療対応、入居までの期間は異なります。

「施設ならどこでも同じ」ではありません。本人に必要な介護や医療、家族が支払える費用、希望する地域を整理してMSWやケアマネジャーへ相談しましょう。

入院費・転院費・介護費用が心配なとき

医療費の自己負担が高額になった場合は、高額療養費制度の対象になる可能性があります。年齢や所得、加入している医療保険によって自己負担限度額が異なります。

また、入院中には食事代、差額ベッド代、衣類・日用品、転院時の交通費など、医療費以外の負担が生じる場合があります。

費用が心配なときは、支払いが難しくなってからではなく、入院中の早い段階でMSWへ相談してください。利用できる制度の確認や、転院先・退院先を含めた現実的な選択肢の整理を支援します。

再び骨折しないために確認したいこと

大腿骨近位部骨折の後は、再転倒や反対側の骨折を防ぐ視点も大切です。

  • 骨粗しょう症の検査や治療を続ける
  • 医師や薬剤師に、ふらつきや眠気が出る薬がないか相談する
  • 室内の段差、電気コード、滑りやすいマットを見直す
  • 夜間のトイレまでの照明を確保する
  • 視力や履物を見直す
  • 無理のない運動やリハビリを継続する

本人を動かさないようにするのではなく、専門職と相談しながら、安全に活動できる環境を整えましょう。

元MSWから家族へ伝えたいこと

大腿骨骨折では、救急搬送、手術、リハビリ、転院の話が短期間に進みます。家族が気持ちを整理できないまま、重要な選択を求められることもあります。

そんなときは、すべてを家族だけで決めようとしなくて大丈夫です。

「本人は家に帰りたいと言っているけれど、家族だけでは介護できない」

「費用の上限がある」

「遠方に住んでいて、頻繁には通えない」

このような事情も、退院先を考えるために必要な情報です。言いにくいことほど、早めにMSWへ伝えてください。

よくある質問

大腿骨を骨折したら、必ず手術になりますか?

必ずではありません。骨折の種類やずれ方、全身状態、受傷前の生活状況、認知機能、本人や家族の希望などを総合して医師が判断します。認知症だけで決まるものではありません。手術を行わない場合は、痛みの見通し、どこまで身体を動かせるか、リハビリ方法、今後の療養場所を主治医や多職種へ確認しましょう。

手術をすれば元どおり歩けますか?

回復には個人差があります。骨折前の歩行能力、年齢、持病、認知機能、リハビリの進み方、生活環境などが影響します。手術直後の状態だけで決めつけず、経過を見ながら目標を調整します。

回復期リハビリテーション病棟を希望できますか?

希望は伝えられますが、病状や時期などの条件、転院先の受け入れ判断があります。希望する地域や家族が通える範囲を含め、早めにMSWへ相談しましょう。

一人暮らしでも自宅に戻れますか?

一人暮らしだけを理由に自宅退院が不可能になるわけではありません。本人の移動能力、認知面、緊急時対応、訪問サービス、食事、服薬管理などを組み合わせて検討します。

家族が介護できない場合はどうすればよいですか?

訪問・通所サービス、ショートステイ、施設入所などを検討できます。家族が無理をする前提ではなく、続けられる方法を専門職と一緒に考えましょう。

まとめ|骨折後の生活づくりは手術直後から始まる

高齢者が大腿骨を骨折した場合、一般的には検査、手術、リハビリを行い、状態に応じて自宅退院、リハビリ病院への転院、施設入所などを検討します。

大切なのは、「歩けるか」だけでなく、トイレ、入浴、認知面、家の環境、家族の介護力、利用できるサービスをまとめて考えることです。

転院や退院の話が出てから慌てないよう、入院中の早い段階で主治医やMSWへ相談しましょう。本人と家族の希望を確認しながら、無理なく続けられる生活を一緒に組み立てていくことが大切です。

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