親の介護で仕事を辞める前に|介護離職を防ぐ制度と相談先

「親の介護が始まった。もう仕事を辞めるしかないかもしれない」

通院の付き添い、ケアマネジャーからの電話、急な転倒、冷蔵庫の中身の確認。

仕事中もスマホが鳴るたびにドキッとして、帰宅後は第二勤務のように介護が始まる。

そんな毎日が続くと、退職届が“介護を楽にする魔法の紙”に見える瞬間があります。

けれど、勢いで退職すると、収入だけでなく、社会保険や将来の年金、職場とのつながりまで一度に失う可能性があります。

介護は退職した翌日に終わるとは限りません。

むしろ時間ができたぶん、家族の役割がさらに増える場合もあります。

私は医療ソーシャルワーカーとして、家族が仕事と介護の間で揺れる場面を何度も見てきました。

その経験から強く感じるのは、退職を決める前に「職場」「地域」「医療」の三方向へ相談してほしいという点です。

この記事では、親の介護で仕事を辞めたくなったときに確認したい制度、相談先、最初の7日間の動き方をわかりやすく紹介します。

※この記事には広告・アフィリエイトリンクを含む場合があります。介護サービスや商品の利用は、ご本人の状態と生活環境を確認し、必要に応じて医療・介護の専門職へご相談ください。

目次

結論|介護休業は「自分が介護を抱える期間」ではない

介護休業と聞くと、「仕事を休んで、その間は自分が親を介護する制度」と思う方が少なくありません。

しかし本来は、

介護認定の申請、

ケアマネジャー探し、

サービス担当者会議、

デイサービスや訪問介護の調整

など、仕事へ戻った後も介護を続けられる仕組みを作るための期間として活用するのが大切です。

厚生労働省によると、介護休業は対象家族1人につき3回まで、通算93日まで取得できます。

対象家族には、配偶者、父母、子、祖父母、兄弟姉妹、孫、配偶者の父母が含まれます。

93日を全部使って家族が介護を担当するのではなく、例えば次のように分けて使います。

  • 1回目:入院直後の説明、要介護認定の申請、退院先の検討
  • 2回目:退院前カンファレンス、介護サービスと福祉用具の準備
  • 3回目:在宅生活を始めた後の見直し、施設探しやショートステイ調整

「休める日数」ではなく、「体制を整えるために使える日数」と考えると、介護休業の見え方が変わります。

新緑の若葉に差し込む木漏れ日(樹木葬イメージ)

親の介護で仕事を辞めたくなる5つの瞬間

職場に何度も電話がかかってくる

病院、ケアマネジャー、訪問看護、役所。

どこも平日の日中に動いているため、勤務中に連絡が集中しがちです。

仕事の電話なら平気なのに、「お母さまが転倒しました」と表示された瞬間、心臓だけ先に早退します。

通院の付き添いが増える

複数の診療科へ通っていると、月に何度も休みが必要になります。

遠距離介護なら移動時間と交通費も重なります。

親がサービスを拒否する

家族はデイサービスや訪問介護を利用してほしいのに、親は

「他人を家へ入れたくない」

「まだ自分でできる」

と拒否する。

話し合うたびに親子とも疲れ、結局、子どもが全部引き受ける形になりやすいです。

兄弟姉妹の負担が偏る

家族LINEでは全員が心配しているのに、実際に病院へ行く人、ケアマネジャーへ電話する人、支払いをする人がいつも同じ。

兄弟の“心配してるよ”だけが増え、担当者の仕事だけが増えるケースです。

夜間対応で眠れない

夜間のトイレ介助、徘徊、転倒への不安が続くと、翌日の仕事に影響します。

寝不足は判断力を下げ、介護事故や仕事上のミスにもつながりかねません。

退職前に知っておきたい仕事と介護の制度

制度の利用条件や給与の扱いは勤務先によって異なります。

まず就業規則を確認し、人事・労務担当へ相談しましょう。

介護休業

対象家族1人につき、通算93日まで、3回を上限として分割取得できます。

希望する開始日の2週間前までに、会社の書面や社内システムで申し出るのが基本です。

一定の要件を満たす雇用保険の被保険者には、介護休業給付が支給される場合があります。

給付の対象や金額は、勤務先またはハローワークへ確認してください。

介護休暇

通院の付き添い、介護サービスの手続き、ケアマネジャーとの打ち合わせなど、短い用事に使いやすい休暇です。

対象家族が1人なら年5日、2人以上なら年10日が法定の日数です。

時間単位で利用できる場合もあります。給与が出るかどうかは会社の規定によります。

短時間勤務などの措置

会社は、短時間勤務、フレックスタイム、時差出勤、介護費用の助成など、法令に沿った選択肢のうち一定の措置を設ける必要があります。

「毎日2時間早く帰れれば続けられる」

「週1回だけ在宅勤務ができれば通院後も働ける」

など、必要な調整を具体的に伝えると相談が進みやすくなります。

残業・深夜業の制限

要件を満たせば、所定外労働の制限や時間外労働・深夜業の制限を申し出られる場合があります。

介護中は「いつ呼ばれるかわからない」だけで体力を消耗します。

残業を断る罪悪感より、長く働き続ける体制を作る視点が大切です。

2025年4月から強化された介護離職防止策

2025年4月から、事業主には、介護に直面した従業員への制度の個別周知・意向確認や、介護休業を利用しやすい雇用環境の整備などが義務づけられました。

「会社に迷惑をかけるから」と制度を確認せず退職する前に、人事・労務へ「親の介護に直面しています。

利用できる制度を一緒に確認したいです」と伝えてみてください。

会社へ相談するときの伝え方

上司へ「介護が大変です」だけ伝えても、何を調整すればよいか分からない場合があります。

次の4点を整理すると、相談が具体的になります。

  1. 親の状態と今後の見通し
  2. 自分が対応しなければならない曜日や時間
  3. 利用を検討している介護サービス
  4. 希望する働き方と期間

そのまま使える相談例

親の介護が必要になり、現在、要介護認定と在宅サービスの調整を進めています。

退職せず勤務を続けたいと考えています。

今後1か月は平日の通院や面談が増える見込みです。

介護休暇、時差出勤、短時間勤務など、利用できる制度と申請方法を相談させてください。

大事なのは、退職の相談ではなく、働き続けるための相談として始めることです。

地域包括支援センターとケアマネジャーへ相談する

家族の働き方だけを調整しても、介護そのものを家族だけで抱えたままでは長続きしません。

地域包括支援センターは、高齢者や家族の相談を受け、必要な制度・サービス・専門機関へつなぐ地域の窓口です。

要介護認定をまだ申請していない段階でも相談できます。

相談するときは、次の内容を伝えましょう。

  • 親の年齢、病気、生活上困っていること
  • 一人暮らしか、同居か、遠距離介護か
  • 転倒、服薬、食事、認知症状などの心配
  • 家族の勤務状況と対応できる時間
  • 「仕事を辞めることを考えるほど困っている」という事実

最後の一文は重要です。

家族の介護力が限界に近いことを伝えると、ショートステイ、デイサービス、訪問介護、訪問看護などを含め、緊急度を意識した調整につながりやすくなります。

すでにケアマネジャーがいる場合は、「家族ができること」だけでなく、家族ができないことも率直に伝えてください。

入院中なら医療ソーシャルワーカーへ相談する

親が入院していると、家族は「退院後は私が全部やらなければ」と考えがちです。

しかし、退院支援は家族の覚悟を確認する場ではありません。

本人の状態、住環境、家族の生活、利用できる制度を組み合わせ、無理の少ない生活を考える場です。

医療ソーシャルワーカーへは、次のように伝えて大丈夫です。

介護のために仕事を辞めることを考えています。

ただ、できれば退職せずに続けたいです。

家族が対応できる範囲を含めて、退院後の生活を一緒に考えてください。

在宅生活だけでなく、回復期・療養病棟、介護施設、ショートステイ、一時的なレスパイト利用など、病状や地域の資源に応じた選択肢を整理できます。

退職を急がないための「最初の7日間」

1日目|今日の勢いで退職届を出さない

心身が疲れているときは、長期的な判断が難しくなります。

まず退職届を閉じ、親の状態と自分の困りごとを紙へ書き出します。

2日目|職場の制度を確認する

就業規則、社内ポータル、人事担当者を通じて、介護休業・介護休暇・短時間勤務・時差出勤・在宅勤務の有無を確認します。

3日目|地域包括支援センターへ電話する

親が住む地域のセンターへ連絡します。自分の住所ではなく、原則として親が住んでいる地域の窓口を探します。

4日目|家族ができることを分担する

「できる人がやる」ではなく、通院、電話、買い物、支払い、緊急連絡などを細かく分けます。

遠方の兄弟でも、ネット注文や支払い、電話連絡は担当できます。

5日目|介護サービスの候補を出す

訪問介護、デイサービス、ショートステイ、配食、見守り、福祉用具などから、最も負担の大きい時間を外部へ任せる方法を検討します。

6日目|会社へ具体的に相談する

「いつまで」

「週何回」

「何時まで」

など、必要な期間と働き方を伝えます。最初から完璧な計画でなくても構いません。

7日目|2週間だけ試す計画を作る

いきなり一生分を決めようとすると、家族会議が終わりません。

まず2週間だけサービスと働き方を試し、ケアマネジャーと見直します。

遠距離介護は「移動回数を減らす仕組み」を作る

遠距離介護では、毎週帰省すると交通費と体力の両方が削られます。

見守りサービス、

配食、

ネットスーパー、

服薬カレンダー、

オンラインでの家族連絡

などを組み合わせると、訪問回数を減らせる場合があります。

薬の飲み忘れや「飲んだか分からない」を減らす補助用品として、時間帯ごとに分けられるお薬カレンダーもあります。家族が確認しやすい形を選ぶと、離れて暮らす親の服薬管理にも役立ちます。

※お薬カレンダーだけですべての服薬事故を防げるわけではありません。薬の管理が難しい場合は、医師・薬剤師・訪問看護師へご相談ください。

ただし、見守りカメラなどを使う場合は、本人のプライバシーへ配慮し、原則として本人の同意を得たうえで設置場所や閲覧者を決めましょう。

機械は異変を知らせる補助にはなりますが、緊急時に駆けつける人や連絡先まで決めて初めて役立ちます。

それでも退職を検討するときに確認したいこと

制度とサービスを使っても両立が難しいケースはあります。

退職が悪いわけではありません。

ただし、決断前に次の点を確認しましょう。

  • 退職後の毎月の生活費と介護費
  • 健康保険と年金の切り替え
  • 雇用保険の受給条件
  • 再就職までの見通し
  • 兄弟姉妹の金銭負担
  • 介護が長期化した場合の資金
  • 親の施設入所が必要になった場合の費用

介護のために退職すると、家族から「時間がある人」と見られ、役割がさらに集中することがあります。

退職後も、何を担当し、何を外部へ任せるかを決めておく必要があります。

家計への影響は、会社の人事・労務、ハローワーク、自治体の相談窓口、必要に応じてファイナンシャルプランナーなどへ確認しましょう。

よくある質問

Q1.介護休業中は給与が出ますか?

会社に給与の支払い義務があるとは限りません。就業規則を確認してください。一定の要件を満たす場合は、雇用保険の介護休業給付の対象になる可能性があります。勤務先とハローワークへ確認しましょう。

Q2.要介護認定がなくても会社へ相談できますか?

相談は早いほどよいです。制度の対象となる「常時介護を必要とする状態」は、介護保険の要介護認定と完全に同じではありません。会社の担当部署へ家族の状態を伝え、必要書類を確認してください。

Q3.親が介護サービスを拒否しています

「介護される人向け」と説明すると拒否される場合があります。「私が仕事を続けるために手伝ってほしい」「まず1回だけ試してみよう」と伝える方法もあります。地域包括支援センターやケアマネジャーに、本人への説明を依頼するのも一つです。

Q4.兄弟が協力してくれません

「もっと手伝って」ではなく、「毎週水曜に電話」「ネット注文」「月1万円負担」など具体的な役割を提示します。やり取りと支出を記録し、担当できない理由も含めて共有しましょう。

Q5.会社へ介護を知られたくありません

個人的な事情を話す不安は自然です。ただ、制度を使うには一定の申出が必要です。直属の上司だけでなく、人事・労務や社内相談窓口へ相談できる場合があります。どこまで共有されるかも確認しましょう。

故人を偲ぶ花の写真

まとめ|仕事を辞める前に、介護をチームへ戻そう

親の介護で仕事を辞めたくなるほど疲れているなら、それはあなたの愛情が足りないのではなく、一人で担っている役割が多すぎるサインです。

まずは次の三か所へ相談してください。

  1. 職場の人事・労務担当
  2. 親の地域の地域包括支援センターまたはケアマネジャー
  3. 入院中なら病院の医療ソーシャルワーカー

退職するかどうかを今日決める必要はありません。

介護休業や介護休暇を使い、外部サービスを組み合わせ、2週間ずつ調整していく方法があります。

家族の介護は、家族だけで完成させるものではありません。

仕事を続けることも、親を大切にする選択の一つです。

参考資料

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